はじめに
「建築士になりたい」
その夢を胸に、設計の世界に足を踏み入れた新入社員の皆さんへ。
今回は、現場で働く中で私が経験した
“建築士としてのリアル”
をお話しします。
希望と情熱だけでは乗り越えられない壁もあります。
けれど、それを超えるやりがいも、確かに存在します。
1. 最初の壁:設計図は「完璧」じゃないといけないのか?
新人時代、私が最初に担当したのは木造二階建て住宅の実施設計でした。
頭ではわかっているつもりでも、
実際に描いた図面が現場で
「これ、通らないよ」
と言われたときの衝撃は、今でも忘れられません。
構造、設備、法規、コスト、意匠。
設計は「理想」ではなく「現実」とのせめぎ合い。
完璧を求めすぎると進まないし、
妥協しすぎれば後でトラブルになる。
設計は、紙の上ではなく
「人との対話」
で成り立っている。それを痛感しました。
2. コミュニケーションの難しさ:「お客様の理想」にどう寄り添うか
施主との打ち合わせで、一番苦しかったのは「予算の壁」でした。
「このキッチンじゃ嫌だ」
「リビングをもっと広くしたい」
「でも予算は増やせない」
理想と現実の板挟みになる中、
ただの“設計者”ではなく、
“調整役”としての力が求められます。
相手の言葉の裏にある「本当の要望」を汲み取り、
納得できる提案をするためには、経験と信頼が何より大切です。
3. 徹夜・現場・トラブル…肉体的にも精神的にもキツい時期
設計事務所で働いていた頃、
繁忙期は週に2〜3回の徹夜も珍しくありませんでした。
図面の修正が終わらない
現場からの電話が鳴り止まない
確認申請の書類がギリギリで通らない
若い頃は根性で乗り切れても、
ずっと続くと心身が削られます。
「もう無理だ」と思ったとき、支えてくれたのは先輩の言葉でした。
「今の苦労は、必ず“設計の深み”になる。逃げずに学べば、10年後の自分が違ってくる。」
その言葉通り、今ではトラブルにも柔軟に対応できるようになりました。
4. それでも建築士を続ける理由
大変なことばかり話してしまいましたが、
それでも私は建築士という仕事を誇りに思っています。
・自分が設計した建物が街に残ること
・施主の「ありがとう」が何よりの報酬
・一つの空間が人の人生を変えるという責任と喜び
“建てる”ということは、
単なるモノづくりではありません。
それは人の「暮らし」や「想い」に寄り添う仕事です。
5. 建築士を目指す新入社員へ伝えたいこと
あなたがこれから進む道には、
確かに大きな壁が立ちはだかるでしょう。
けれど、その壁を乗り越えるたびに、
あなた自身が「設計士」として深まっていきます。
• わからないことは素直に聞いてください
• 失敗しても逃げずに学んでください
• 一緒に悩んでくれる仲間を大切にしてください
そして何より、「建築が好き」という気持ちを忘れないでください。
まとめ
建築士は、ただ図面を引くだけの仕事ではありません。
人と向き合い、空間と向き合い、
自分自身とも向き合う。そんな、人生に深く関わる仕事です。
夢を持つ新入社員の皆さんへ。
その夢は、努力と継続によって必ず形になります。