ある晴れた日の午後、私は若き建築士として、初めての独立を決意したばかりの頃、
尊敬する師匠の事務所を訪れました。
師匠は、業界で名の知られた建築士で、彼の手がけるプロジェクトはどれも完璧に近く、どこか独特の温かさを感じさせるものでした。
私にとって、師匠はただの師匠ではなく、建築に対する考え方そのものを教えてくれる存在でした。
師匠との出会いは、私が大学を卒業してまだ駆け出しの頃でした。
最初は小さな設計事務所で働いていた私は、技術的な部分で精一杯で、どこか機械的に建物を作ることにしか意識が向いていませんでした。
しかし、ある日、師匠から
「建物はただの箱じゃない。人々がその中でどんな生活を送り、どんな感情を抱くかを考えて設計するんだ」
と言われた瞬間、何かが心に響きました。
その言葉をきっかけに、私は建築に対する視野を広げていったのです。
師匠は、技術や理論だけでなく、建物が持つ「感情」や「温もり」についてよく語っていました。
彼の事務所には、設計中の建築模型やスケッチ、何気ないメモが散らばっており、その一つ一つに彼の思いが込められているのが感じられました。
設計ミーティングでは、必ず「この建物が使われる場所、使う人々を想像してみて」と言いながら、
具体的な形状や配置についてだけでなく、空間がどう感じられるか、どういう動線が心地よいかにまで触れていました。
あるプロジェクトで、私が設計した図面に対して、師匠はこう言いました。
「いいデザインだ。でも、この部屋に座ったとき、どんな風に感じるだろうか? もしその空間に自分がいるとしたら、どう感じるだろう?」
その時、私は「設計者の視点だけではなく、ユーザーの立場をもっと考えなければならない」と痛感しました。
建築はただの空間作りではなく、
その空間に住まう人々がどのように生活し、どんな感情を抱くのかを大切にしなければならないのだと。
師匠はまた、
「失敗を恐れるな。大切なのはその失敗から何を学ぶかだ」
とも言いました。
彼自身、何度も設計ミスを犯したり、予想外の問題に直面したことがあったと言いますが、
それらを乗り越えることで、建築の本質に近づいていったと語っていました。
その言葉を胸に、私も挑戦し続けることの大切さを学びました。
ある日、私が事務所を訪れた時、師匠が静かに図面を見つめながら言いました。
「建築には終わりがないんだよ。完成したと思っても、時間とともにその場所は変わり続ける。だからこそ、次の世代が使いやすいように、今の時代に合ったデザインを考えるんだ。」
その言葉が今でも心に残っています。
建築士としての成長を支えてくれた師匠の言葉と姿勢は、私がこれからの道を歩む上で、常に指針となり続けるでしょう。
彼のような建築士を目指して、私は日々の仕事に取り組んでいます。
師匠の言葉に背中を押され、私は今日も新しい設計に挑戦しています。